SEASONAL
JOURNAL
SUMMER 2026

長楽館の「修復」の歩み 長楽館の「修復」の歩み

CHOURAKUKAN LEGACY

装飾

長楽館の「修復」の歩み

明治42年に竣工した「旧村井家別邸 長楽館」は、百余年の時を経てなお、創建当時の意匠と空気を今に伝える文化遺産です。2024年には国の重要文化財に指定され、その価値は建築そのものにとどまらず、館内に息づく装飾や設え、そしてそこに受け継がれてきた物語にも及びます。
文化財を未来へつなぐために欠かせないのは、単に「残す」ことではなく、時を重ねるなかで生じる傷みや変化と向き合いながら、その価値を守り続けることです。床やタイル、壁面装飾、障壁画など、建物を構成する一つひとつに専門家の知見と手仕事が注がれ、修復の現場では創建当時の美しさを尊重しながら、次の時代へ継承するための技術が受け継がれています。
長楽館では、文化財を静かに保存するだけでなく、実際に人々を迎え入れる場として活かしながら守るいわゆる「動態保存」の考えのもと、その価値を未来へとつないでいます。
これまで館内で重ねてきた保存・修復の歩みをご紹介します。
Feature 1
旧食堂の間 寄木の床装飾

現在フレンチレストラン「LE CHENE」として使用されているこの空間は、長楽館竣工当時、メインダイニングとして賓客を迎えていた食堂です。室内には、創建当時の意匠を今に伝える寄木張りの床が残されています。

この床は、長い年月のあいだ絨毯の下に覆われていましたが、近年その下から、美しい木目と幾何学的な装飾をもつ寄木の意匠が現れました。

今回の保存作業では、経年により黒ずみが見られた床を丁寧に洗浄し、保護塗装を施しました。磨き上げられた床には、創建当時の木の表情や繊細な装飾が鮮やかによみがえり、この空間が本来備えていた美しさを改めて感じさせてくれます。

日々人を迎える空間だからこそ、こうした継続的な手入れを重ねながら、その価値を未来へ受け継いでいます。

Feature 2
御成の間 千鳥に波の障壁画

長楽館3階の「御成の間」は、洋館の最上階に設けられた書院造の和室です。室内の壁面には、金や銀の装飾を施した和紙に、千鳥や波、霞などが描かれた障壁画が広がり、長楽館の和の空間を象徴する一室となっています。

今回修復を行ったのは、床の間にある大きな障壁画です。長い年月のなかで、地震や経年による影響を受け、画面には大きな裂け目が生じていました。
修復では、まず壁面から本紙を慎重に取り外し、裏側に重ねられていた過去の裏打紙や下張紙を一層ずつ丁寧に除去していきます。その後、本紙の状態を整えながら、新たな和紙を一枚ずつ貼り重ね、亀裂の補修や支持力の回復を行いました。職人の高度な技術と経験を必要とする作業です。

Feature 3
文化財の修復について

文化財修復に用いられる素材は年々希少になり、それらを扱う技術を持つ職人も限られつつあります。文化財を未来へ残していくためには、建物や作品そのものを守ることに加え、それを支える材料や修復技術、そして次の時代を担う人材を育み、受け継いでいくことが欠かせません。
文化財を守ることは、建物や作品を残すことだけではなく、それを支える技術や人を未来へつなぐことでもあります。長楽館もまた、その継承の一端を担い続けたいと考えています。