



館の中央、中2階に位置する「喫煙の間」。
建築当時には「支那室」とも呼ばれ、村井吉兵衛が客人をもてなすための喫煙室として設けられました。
この部屋でひときわ目を引くのが、床に施された幾何学模様のタイルです。
竣工時の写真には絨毯が敷かれていますが、その下には現在も残るタイルの意匠がすでに姿を見せています。
床材としてのタイルには、火や熱に強く、灰などの汚れも手入れしやすいという実用性もありましたが、長楽館のタイルは実用の中にも美を求めたものです。
19世紀後半から20世紀初頭の欧米では、喫煙室にイスラム風の意匠を取り入れることが流行しました。異国的な幾何学模様や装飾を取り入れた空間は、日常とは異なる趣を愉しむための演出でもあったのかもしれません。
繰り返し描かれる幾何学模様は、イスラム建築に見られる装飾を思わせ、独特の異国情緒を添えています。
明治末期の迎賓館・長楽館の「喫煙の間」の床には、そんな美意識の一端が残されています。



当時の写真帖には「開廊」、英語では「The South Verandah」と記されたバルコニー。
現在見ることのできる床タイルは、実は長い間、その姿を隠していました。
2013年、ベランダ外壁の修復工事に際し、厚いカーペットが敷かれていた床にふと疑問が生まれました。この一室は屋根があったとはいえ、もともとは外気に開かれた空間。雨風にさらされる場所に、カーペットが敷かれていたとは考えにくい――。
そこで関係者がカーペットを慎重にめくると、幾重もの床材の下に、竣工当時の写真帖で見覚えのある幾何学模様が現れました。
こうして、長い年月を経て眠っていた建築当初の床タイルが「再発見」されました。
現在は長楽館の歴史を紹介する展示エリアとして活用されています。



かつて温室として使われていた一室にも、建築当初のタイルが残されています。
当初の写真と同じ、シンプルな幾何学模様のタイルです。
長楽館の細部の美が、時を経て再び姿を現し、今も訪れた方の目を楽しませています。
さて、このタイルを模したスイーツ「長楽館モダンタイルタルト」が本年10月・11月に、デザートカフェ長楽館にて復刻します。
「京都モダン建築祭」の開催に合わせた期間限定メニューです。
建築装飾を、目でも舌でも味わう。建築好きの方にお楽しみいただきたい一品です。